2022年デザインビジネスの展望
昨年末に一旦収束の兆しが見えかけたコロナがまた微妙に増加し始めています。ここ2年ほどのコロナ騒ぎでデザインビジネスにも大きな変化が見られました。特に現場レベルの仕事でその変化が顕著でした。
また、東京とそれ以外の地域でその変化の内容がかなり違っていることにも目を向けるべきでしょう。
そこでまずコロナによってデザインビジネスがどのように変化し始めたかを整理します。
コロナによるデザインビジネスの変化
●自粛による従来媒体の広告減少
◆紙媒体広告の著しい減少
◆費用対効果のさらなる追求
●デジタルメディア拡大による宣伝方法の変化
◆グラフィックデザイナーレベルで効果を上げることが難しく、
デジタルクリエイターとの連携が不可欠
◆目で見て読ませるデザインから目で見て聞かせるデザインへ
●紙媒体のような単品訴求では効果が限定的に
◆デジタル、アナログそれぞれのアドバンテージを生かした
連携訴求が不可欠
◆継続的な広報体制の必要性拡大
●比較的小規模の企業やショップでも公的資金活用の広がり
◆特にホームページやECサイト構築ビジネスでバブル現象
●リモートワーク拡大でフリーランスのデザイナー大幅増加
◆作業環境変化による効率化と非効率化
●働きかた改革の浸透によるデザイナーの待遇向上
◆大手企業内デザイナーと小規模デザイン会社や
フリーランスとの格差拡大。
●能力による選別が加速
◆定年程度の年齢までデザイナーでいることが困難
●企業内正社員デザイナーの減少
◆企業が長期間1人のデザイナーを雇用し続けることを敬遠
●デザイン料金の格差拡大
◆サブスクリプションなどの料金体系登場による価格崩壊
◆人脈やブランド力での高額デザイン料金が減少傾向にあるものの
依然として存在
●デジタル対応力が業績に直結
◆外注頼みでは対応に限界
ざっと上げるだけでもこれだけの変化が起こっています。
もちろんこの中には、コロナ以前から言われていることもありますが、コロナによる影響でそれらがさらに顕著になっています。
こうして見ると、公的資金活用の活発化以外デザイナーにとって不利なものが目立ちます。
それだけデザインという仕事の厳しさがコロナ以前よりも拡大したことは間違いありません。
デザイナーの起業について
このような状況から垣間見えるのは、一見企業側にとってもデザイナー側にとってもメリットがあるようにいわれているテレワークやフリーランスといたスタイルが、デザイナーにとって自分たちの首を絞める状況になりかねないということです。
デザインという職業はどんなタイプの人でもフリーランスや起業に向いているわけではありませんし、企業内でこそさまざまな勉強をし、成長していけることも多く、サラリマンデザイナーというマイナスイメージな人材ばかりとは限りません。
自分がどちらに向いているかは本人が一番自覚しているはずですが、今回のコロナをきっかけにテレワークや業務委託など本人が望まない形での勤務形態を押し付けられ、苦しんでいるデザイナーも多いでしょう。
しかし、もともと独立志向の強いデザイナーにとっては大きなチャンスといえるかもしれません。会社と一定の関係性を残したままフリーランスを選べるというのは大きなメリットでしょう。
ましてや最近では副業を奨励する会社まで現れていますので、緩やかにリスクを軽減しながら起業するという方法も考えられます。
企業が気づいていないデザイナーの重要性
こういった図式は企業側にとってメリットが多い様に思われますが、長い目で見たときに大きな落とし穴が潜んでいると私は考えています。契約社員や業務委託、テレワークからアウトソーシング、この様な勤務形態は、企業にとって人件費削減やそれにともなう諸々の経費削減に大きく貢献し、また忙しさの度合いに応じて手数を調節できるという経営上のメリットが大きいわけですが、ビジネスというものは数字の計算だけでは測れない様々な要素を含んでします。特にデザインなどはっきりとした形に現れないノウハウや知識、感性などは経営戦略上目に見える数字と同じ様に考えることができないはずです。
特に物づくりにおいて、経験を積んだデザイナーとそうでないデザイナーでは根本的に出てくるアイデアも違い、そのさきの商品化に向けたプロセスの進め方も大きく差が出てきます。そういった経験や知識は業務委託契約やフリーランスの状態では蓄積することが難しいため、何か理由がはっきりしないまま効率の悪い仕事を続けることになってしまいます。
それは将来的に市場を失う最も大きな原因であるにもかかわらず、改善方法もはっきりしないまま結果的に業績の悪化を招くのです。
現に大手アパレルがこの現象の典型で、あれだけのブランド力を誇った会社が今ではほとんどが苦戦を強いられています。ファストファッションの台頭や個性の細分化を理由に挙げていますが、私は最大の理由がこのデザイナー軽視にあると考えています。この状況はアパレルに限らず物づくり全般に言えることかと思いますが、不思議と機械などもっとハードの持つ力が大きい業種ではあまりこういった状況に陥っていません。それはつまり、物自体の持つ力を作り手自身が重要視しているからであり、デザイナーの経験や知識も重要になっているのがわかっているからでしょう。
先ほど挙げたアパレルの場合、欧米で流行したものの焼き直しばかりを展開したり、他ブランドで売れたものを追いかけたり、デザインや企画というものの力をあまりにも軽視した商品作りをしていました。そんな中ファストファッションに足もとをすくわれ、どうにも挽回できない状況に陥りました。しかもそこで売り上げを確保するためにとった方法が、ZOZOTOWNへの丸投げでした。本来ならもっと早くにネットでの販路を自分たちで確保しておかなければならないものを社内企画の経験不足・勉強不足によって時期を逸してしまいました。結果ご存知の様にZOZOTOWNばかりが利益を上げ、肝心のアパレルはどんどん低迷するという現象が起きました。
この様なことの発端も、結局は企画軽視、デザイナー軽視のツケであり、企業判断の誤りであったと私は思っています。
そして、同じ様に他の業界でも企画軽視・デザイナー軽視の考え方が後々大きな弊害を生む可能性があるということを考えなければならないでしょう。自分たちの業種ではどうか、同じ様な悪循環が始まっていないかなど、今一度注意深く見て見る必要があると思います。
差別化が難しい時代に
働き方改革以降徐々に進んできたデザイナーの勤務形態の変化は、コロナの影響で一気に加速し、企業内デザイナーの独立や起業が相継ぐでしょう。
その結果、ひしめき合う小規模デザイン会社やフリーランスの価格競争や過剰なサービスが当たり前になってしまい、他社との差別化が余計に難しくなっていくでしょう。
2022年、デザイン会社やデザイナーにとって他社と差別化が今まで以上に難しくなるのは間違いありません。
価格や過剰なサービスではない差別化の方法を持っているかいないかが、生き残りの分かれ目になると思っています。