2024.5.23

BARのこと

富士屋ホテル メインバー

私はそれほど酒が強いわけではありません。
酒の種類にもよるのですが、日本酒やワインはあまり得意ではありません。
もちろん1杯目のビールは、この上なくうまいと感じますが、2杯、3杯という感じではありません。
食事をしながら飲むのはビールや酎ハイでもいいのですが、じっくりと落ち着いて飲みたいときはウイスキーを選びます。なかでもバーボンが好きです。日本のウイスキーが世界的に高評価を受けていますが、私はスコッチやジャパニーズウイスキーよりもバーボンがいいです。
私が酒の味を覚えた約40年前には、今ほどBARが沢山あったわけではありません。20代前半の頃は、友人と居酒屋、会社の先輩や同僚とスナック、というのが世間的にも当たり前の時代でした。ところが世の中はその頃からいわゆるバブルがやってきます。ファッションや文化も一気に華やかになり、若者の遊び方も大きく変化します。
プールバー(ビリヤード場)やディスコが人で溢れ、酒を飲む場所も多様化し、どんどんお洒落になっていきました。
映画の「COTTON CLUB」や「カクテル」でのリチャードギアやトムクルーズの格好良さに憧れ、若者向けのBARでカクテルやバーボンという酒を飲むようになったのです。
カクテルやバーボンの名前をたくさん知っていることが自慢だったり、自宅にカクテルのシェーカーやロックでバーボンを飲むためにロックグラスを揃えたり、酒の味も分からない若造が流行に乗っかって、格好付けて飲んでいたものでした。


私のバーボン好きはその頃からですが、当時はバーボンも今より高価で、上等のものはなかなか飲めるような価格ではありませんでしたが、それでも無理をしてBARの棚に並んでいるボトルを端から順番に試していったりしたものです。
最近では、気に入っている銘柄も決まってきましたが、何よりうれしいのは昔に比べて圧倒的に価格が安くなったことです。当時は高くてなかなか飲めなかったものが、それほど頑張らなくても気楽に呑めるようになってきました。
大手のスーパーや酒のディスカウントにいけば、ボトルで千円台というのも珍しくなく、4、5千円も出せばかなりうまいバーボンが手に入るようになってきました。当然BARで飲むときにも昔より気軽に注文できるわけです。
ただ、酒というのは少しでも安くたくさん飲めればいいというものではないというのが、年齢と共に分かってきます。特に私のようにあまり酒が強くないものにとってはなおさらです。


そして年齢と共に酒の飲む場面が変わってくるのも不思議なことです。友人とわいわいやるのもいいのですが、うまい酒を飲むときにはひとりが一番いいと思うようになってきます。
そしてそのためには居心地のいいBARが必要になってくるので、店選びが最も重要になってきます。
私はBARを選ぶ基準が2つあって、1つ目は「店に対する興味」。そしてもう1つは「心地よさ」。
店に対する興味というのは、内装であったり、店の歴史であったり、シチュエーションであったり。最近のBARは特に内装の凝っているところが多く、以前のようにクラシックなしつらえばかりではない面白さがあります。ただ、やはり老舗ホテルのBARにも素敵な雰囲気がありますし、路地裏にあるようなクラシカルなBARもいいものです。
とはいうもののそういった店は総じて2、3杯も飲めば、席を立たないといけない雰囲気があるので、あまり居心地がいいとはいえません。店の雰囲気を一通り楽しんだら、さっさと席を立つのが大人の飲み方のようです。


居心地のいいBARというのは不思議なもので、何時間居ても退屈しません。いつもよりたくさん飲んでもあまり酔うこともなく、延々と飲み続けられるような錯覚すら覚えます。私がいちばん居心地がいいと感じている祇園のBARは、空いている時間に行くと、私の好みに合ったBGMを選んでくれます。だいたいのBARではJAZZなどお洒落な音楽がかかっていますが、その店はおよそBARには似つかわしくない70年代や80年代のフォークソングを次々にかけてくれます。マスターも同世代なのでそういう曲を聴きながら昔のことを話していると、2時間や3時間はあっという間に過ぎて、3杯目、4杯目のグラスも空いてしまいます。新しく仕入れたCDを自慢げにかけてくれることもしばしばで、そのたびに音楽談義に華が咲くのです。
その店のオープンと私の独立した時期が近いこともあって、マスターとは自分の城を維持していくことのしんどさや慶びも何か共有できる気がするので、居心地がいいのかもしれません。
不思議なものでBARというのは、行き出すと月に2度、3度と足を運ぶのですが、出張が続いたり、仕事が詰まっていたりすると2ヶ月も3ヶ月もご無沙汰というのが珍しくありません。それでもその店に行くと、5杯、6杯と深酒をしてしまい、5時間も6時間も居座って、眠気が襲いだす夜中の2時や3時になってようやく店を出るのです。
そしていつものように壱銭洋食の営業時間が終わってしまったことに後悔をしながら、学習できない私はタクシーに乗るのです。
ああ、それにしても朝飯に壱銭洋食 食べたかったなあ・・・。

KDF graph Vol.2より

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