2023.9.10

墨を擦る

硯と墨

パッケージデザインやパンフレット等のデザインでも筆文字を使うことがよくあります。ホームページからのお問い合わせでも筆文字や墨絵の案件がかなり多く、そのたびに筆と墨と半紙を机に広げて描く準備をします。
ここで意外と大事なのが「墨」。

墨汁が各社からいろいろ出ていますが、私は必ず墨を硯で擦るようにしています。
私はデザインで筆のタッチを使いたいだけで、書道家でもないですし、水墨画専門のイラストレーターでもありませんが、そこだけは守るようにしています。

理由はいろいろあるのですが、正直10年くらい前は100均の墨汁と半紙を使っていました。でも、描き上がった絵や文字をそれなりの金額をいただいて仕事をしていますので、あまりにもそれでは仕事に対して失礼だなと、あるとき思い始めました。

たまたま仕事で奈良へ行くことがあり、商店街を歩いていると書道道具店を見つけ中に入ってみると、沢山の墨や硯、筆、紙がピンキリの値段で並んでいました。硯などは意外と高い物だなと思いつつ、試し書きができるものがあったので何気なく試してみると、これが驚愕の描き味。紙がいいのか、筆がいいのか、墨がいいのか、とにかく普段使っている100均のものとは次元の違う描き心地。まあ、100均と比べるのはあまりにも失礼な話ですが、とにかくこの描き味を仕事でも使いたいという思いで、早速墨と硯と筆を大人買い。紙は持ち帰るのに荷物になるので、帰ってから同じものをネットで購入。

それ以来、奈良へ行く用事がある度に違う墨を買ってみたり、水差しなどの小物を買ってみたり。硯箱も必要だと思い、慰安旅行で飛騨高山へ行ったときに欅の塗り物を手に入れました。

作業机
筆

次元の違う描き味とはどういうものかというとなかなか言葉で表現するのは難しいのですが、強いて言えば、筆が紙の上を走るときに紙の肌感が墨を介して伝わる感じです。

また墨を擦るときに濃さを自分で決めることができるのも墨汁にはない良さです。もちろん墨汁も水を加えれば薄くすることはできますが、墨汁の場合は薄めると均等にむらなく薄まるので、紙の上で滲ませたときに面白くないというか、均一すぎて味がないというか・・・・。擦った墨には微妙なムラ感があり、それが紙の漉きムラと相まってなんとも予測が付かない微妙な味が出るのです。

それともう一つ、仕事で使うようになってから気づいたことですが、硯で墨を擦っているその何分かが実にいい間を生んでくれるのです。ほんの数分ですが、擦っている墨の香りを嗅ぎながらバタバタと仕事をこなしている状態からフッと肩の力を抜きリセットできる感覚が心地よいのです。

私のような「なんちゃって墨絵絵師兼書道家」にも、やっぱり道具って大事なんですよ。

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