2020.5.17

コロナ騒動以降のデザイン業界は?

働き方改革とデザイナー

ようやく終息の気配が出てきた新型コロナウィルス騒ぎですが、今回のこの騒動がデザインの業界をどのように変えるのかを考えてみました。勿論私見ですが、これからデザイナーになろうとする学生や、あと何十年もデザイナーでいつづけたい若手のデザイナーの方は参考程度に読んでいただければと思います。

コロナ騒動の直前に「働き方改革」の波

今回のコロナウィルス騒ぎの前に「働き方改革」というデザイン業界にとってはたいへん大きな波があったことを忘れてはいけません。今回の騒ぎは「コロナウィルス騒ぎ」単体のものでは無く、この「働き方改革」の波とセットで考えることが必要です。

企業の雇用に対する考え方の変化

このWの波が企業の雇用環境を大きく変えることは間違いありません。それはデザイン業界に限らず様々な業界でも同じことでしょう。

ではどのように変化するのでしょうか。

ここで忘れてはいけないのが企業が何を目的に存在しているかということです。いくら雇用環境が以前より改善されたとはいえ、企業は社員のために福祉活動をしているわけではありません。社員の生活を守るためだからこそ利潤を追求し、長く存在することを考えなければなりません。そのためにはできるだけリスクを少なくし、効率の良い経営が必要となります。そのためには雇用する社員の数や種類、質についても精査する必要があるのは言うまでもありません。

企画やデザインという職種は企業にとって最もリスキー

デザイナーという職種は企業の中でも特殊なポジションにあることが多く、評価の基準や採算、不採算の判断がたいへん難しいというのが普通です。例えば営業職のように成績を「売上げ」という絶対的な数字で判断したり、事務職や工員のように時間単位で仕事量を測るということができないからです。印刷会社や広告代理店の社内デザイナーなどは会社によって「売上げ」という形でデザイン料の額を判断の基準にしているところもありますが、その基準自体が曖昧なため、その数字で評価をするのはとても危険です。つまりデザイナーという職種は企業にとって、とても判断のしにくい、わかりにくい職種ということになります。その企業の業績がよければ、そういう曖昧なポジションも大切だということができますが、一端業績が悪化して従業員のリストラや採用抑制が始まると、まず削減対象になるのは企画やデザインといった業績に貢献しているのか、していないのかよくわからないところからというのが普通の考え方です。

今回のW騒ぎとインフラの進化はデザイナーの雇用を変える

まず「働き方改革」では社員全体の勤務時間が大幅に短縮されました。例えば1日1時間残業が減ると1ヶ月で約20時間。これは労働日数にして約2.5日分です。それが1年間で約30日。つまり元々残業の多かったデザインという職種は働き方改革で残業時間が減ったはずですから、年間で約30日分も仕事をしなくてよくなったということです。さらに有給休暇も年間20日間必ず取得とすると合計で50日間も働かなくてよくなったことになります。

この数字が企業にとってどういうことを意味するか・・・・。

ただでさえ判断基準がよくわからない職種であるところにこの50日間短縮という事実が大きく意味を持つことは確実です。

さらに、コスト削減を目的としてデザインや企画の「内製化」を進めていた印刷会社や広告代理店も、少しくらいのことで簡単に解雇などのリストラを法律上行えないようになってきましたから、そういう不安要素のある職種の正規雇用をためらうようになります。しかも非正規雇用についても、条件面でかなり正規雇用に近くなってきましたので、派遣や契約社員でしのぐということもできにくくなってきました。

もともと社内の企画やデザインといったノウハウを育てないといけないポジションは、派遣や契約でなく、正規雇用でじっくりと育てることが必要なので、派遣や契約社員で凌ごうとすること自体、正しいかどうか疑問ですが、いずれにしても企業が雇用をためらう職種の最有力となることな間違いありません。

そういう状況の中で突然ふってわいた今回のコロナウィルス騒ぎ。

これによって企業が極端な時短、テレワーク、休業などで業績が一気に悪化し、先行きがまったく見通せなくなってしまいました。そして幸か不幸か、それを少しでも克服しようとテレワークやオンライン会議、5Gの登場など業務のインフラ整備が一気に加速することとなりました。本来デザインという業務はPCやアプリケーションの都合で自宅でのテレワークがしにくいとされていましたが、かねてからのクラウド化やフォント環境の変化、PCの高性能化、通信環境の劇的変化などで、なんとかなる状況ができあがったため、急速に自宅やコワーキングスペースでの仕事が可能になりました。
そうすると企業は何も社内にリスキーなデザイナーをかこう必要がなくなり、「正規雇用→非正規雇用→アウトソーシング」という考え方に現実味が出てきます。アウトソーシングであれば仕事があるときだけ発注すればいい訳ですから、人件費の無駄も省けますし、何より外部のスキルが高いデザイナーを選り好みして発注することができるため、人材育成の手間も省けると考えるでしょう。

結果的にフリーランスや小規模のデザイン会社が増える

このような動きから正規・非正規を問わずデザイナーの雇用自体が減少することは避けられず、結果的にフリーランスや小規模のデザイン会社が増えることとなります。

その上、世の中の「フリーランス奨励」の気運が後押しし、デザイナーは今までに無い「フリーランス全盛期」を迎えることになります。

競走原理は2つ

フリーランスや小さなデザイン会社が増えると、当然競争が激化します。発注する企業側にとってはとても都合の良いことですが、デザイナーの側からすると競争に勝ち残る必要が出てきますので、大変な時代になってくるでしょう。

ここでいう競走にも2つあって、これを分けて考えないと余計に自分の首を締めるだけになってしまい、長く仕事を続けることができなくなってしまいます。

その2つというのは

1   価格競争

発注する側はもともとリスク回避のためにアウトソーシングという道を選んだわけですから、当然コストも抑えにかかります。それによってデザイナーの外注費はどんどん競走によって下落し、苦しい状況に拍車がかかります。

2   質の競争

多少デザイン費が高くついても出来栄えに納得できれば、それなりの費用をかける企業もあります。大事なデザインや企画をケチったことで自社の業績が悪化しては何にもなりませんから、許容される範囲で価格より質を選ぶということも十分にあり得ます。

この2つの競争に勝ち残るためにデザイナー側はどちらの道を選択するかを迫られます。マーケティングの原理として「安易な方法に流れる傾向が強い」ということがありますので、市場は価格競争に走るところが多くなるのは確実で、より苦労の多い「質で勝負」するデザイナーが少数派になることは間違いないでしょう。

勝ちのこる方法は

ではこの2つの競争に勝ち残るにはどうすれば良いでしょう。

どんな業種にも言えることですが、価格の競争に明るい未来はありません。

例え価格の競争に勝ち抜いたとしても、いったん下落した価格を引き上げることなど至難の業ですし、その低い価格で受注し続けることは「質の低下」を招くのが目に見えています。そうするとせっかく勝ち抜いたのにその「質の低下」のために受注を失うということも起こってきます。

だからといって「質の競争」に勝ち残るためには相当な努力と経験、そして実績が必要です。これは価格を下げることよりもハードルが高く、もともと努力を苦手とするタイプが多いデザイナーにとっては余計に難しいことになります。

ただ、間違いなく言えることは

●価格競争に明るい未来はない。

●質を上げるためには努力や経験が必要なので時間がかかる。

●サービスの過剰はいずれ限界を迎える。

●納得できる価格であれば、ちゃんと評価してくれる企業もたくさん存在する。

●デザインというものが産業構造の中でどういうポジションにあるかを知るべき。

●自分のデザインのジャンルがデザインというビジネス全体の中でどういう位置付けにあるかを理解する。

●自分(自社)の強みがちゃんと持てているか確認する。

●それまでの実績が次の仕事のレベルを決める。

●自分で仕事を作り出す感覚を持つ。

●競争相手も努力が苦手。勉強したものが必ず勝つ。

●デジタルやインターネット全般に対するスキルが業績に大きく影響する

これだけのことを理解してそれぞれが自分自身のブランディング方法を模索するしかないのです。

フリーランスや自分の事務所を運営するということはその方法論も自分で決めないといけないわけですから、長期的な戦略としてこれらのことを常に頭においておく必要があります。それを怠るとこれからの時代に勝ち残ることはできないでしょう。

今回の「働き方改革」と「新型コロナウィルス騒ぎ」でデザイン業界は大きく変貌します。それはかつてデジタル化やWEBの登場で起こった変化よりもずっと大きなものになるはずですが、こういった変化というのは期日が決まっていて、今日から変わります、というものではなく徐々に押し寄せて、気がつくとこうだったねというものなので、うっかりしていると完全に乗り遅れるということになります。

デザイナー一人一人がアンテナを張り巡らし、自分のポジションをどこに置くのかを真剣に考えないと5年先、10年先にもデザイナーでい続けることはできないでしょう。それを考えることこそが自分自身のブランディングでもあるのです。

そして、もうすでにこの流れは始まっているのです。

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