2021.1.18

コロナ禍のデザインビジネスについて

コロナ禍のデザインビジネス

デザインと一言にいっても様々なジャンルがありますので、それをひとまとめで考えるのは無理があります。現状全く元気のないアパレル系の企画や紙媒体の広告などのように苦戦しているものもあれば、HPやECサイトをつくったり、コンテンツを発進するWEB関連の業務では人手が足りないほど忙しいというところも出てきています。特に国や自治体からの補助金が活用出来る案件では、受注する側も安心して作業ができることから、プチバブル的な状況も起こっています。

デザイン会社によって何らかの得意分野があることが普通ですが、そのジャンルの違いによって勝ち組と負け組に大きく分かれているのが現実です。
今回コロナ禍のデザインビジネスではっきりしたことは、「業務の専業化がすすんでいるほど格差が明確に出る」ということと「専業化はこういう非常時に対応しにくい」ということでしょう。

業務の種類別に見てみると・・・・

●飲食業・観光関連業の広告や販促物のデザイン
最も大きく落ち込んでいるジャンルで、回復にはコロナ収束が大きな条件になる。
●アパレル・繊維製品などの広告や販促物のデザイン
飲食業や観光関連業などと同じく大きく落ち込んでいる。この分野はもともと潜在的な商品供給過多という構図があるため回復は一部のファストファッションブランドや抗菌・抗ウィルス関連商品などのジャンルを除き、さらに厳しい状況が続く。
●その他業種の広告や販促物のデザイン
業種によって格差が大きいが、基本的に消費マインドが冷えきっている状況ではなかなか回復するのは厳しい。ただ、ピンスポットで「今だからこそ」というジャンルが存在しているのも事実。しかし、そういった業務は短期間で消滅する場合が多いので、素早い反応が必要とされ、引いたり押したりのタイミングを見極めることが重要。
●アパレル関連の商品企画
この春を越せないアパレル企業が相当な数に登ると予想されるので、当然新商品の企画にお金をかけるのは厳しい。従来から頻繁に行なわれている「売れているものの模倣」がさらに広がることが懸念される。ただ、ユニクロなど一部の巣篭もり需要を狙ったホームウェアの動きは堅調で、抗菌や抗ウィルス対応の製品とともにリリースラッシュが続く。
●インテリアや雑貨関連の商品企画
巣篭もり需要の拡大で「家で使うもの」はそれなりに売れているため、ホームセンターや大型量販店の売り場を中心に抗菌や抗ウィルス対応商材が盛んにリリースされている。
テレワークのために必要なものを揃えるという特需が存在するのも当然で、政府が掲げる7割テレワークという目標に近づけば必然的に潤う。
●その他業種の商品企画
広告や販促物と同様、消費マインドが冷え切った状況ではかなり厳しい。拡大した格差の中でも堅調な業種や企業は存在するのでそこを上手く選別するこどが重要。
●出版物のデザイン
コロナ以前から潜在的に出版不況は深刻で、従来の紙媒体だけでは立ち行かない状況。特に数量の多い雑誌や新聞の落ち込みは顕著で、デジタルとの融合などアナログだけではないアプローチができているかが重要。ただ、アナログだからこその利点を活かす考え方も徐々に広がりつつあり、今以上に需要が極端に細ることは考えにくい。
他の商品企画同様「多品種小ロット」の動きは避けることができないので、逆にそれを利用するような考え方の転換が必要。
●広告のデザイン
各業界厳しい状況であることに間違いはないが、インターネット広告の需要が高まる中で中小企業を中心に「代理店に頼らない広告」が拡大。自分たちで媒体を選択し、効果を確認しながら広告を発信できるということのメリットははてしなく大きい。広告のデザインを請け負う側にも、WEBを中心としたインターネットのノウハウが不可欠。単に見た目のデザインだけでなく、その企業なりの発信方法や検証のレクチャーができることが望まれる。そのためには、その企業の製品知識や販売戦略にも関わっている必要があり、デザインする側のハードルは非常に高くなっている。
●WEBデザイン
ビジネスにおいてWEBが不可欠であることは、以前から散々言われていたことではあるが、中小企業や個人商店レベルでは未だにHPがなかったり、あったとしてもほんの申し訳程度である場合が想像以上に多い。さすがにこのコロナ騒ぎの中、様々な補助金を使ってHPを作る会社が一気に増加したこともあり、都市部のWEB制作会社はどこも盛況のようだ。しかし、WEBデザインは出来不出来の差が業績に大きく影響を与えるので、つくるクライアント側は慎重に業者を選定しなければならない。単にWEBを制作するだけの会社では外見上それなりのデザインに仕上がっていても、実際にそのクライアントの大事な部分が市場に伝わらない・・・といったことも起こってくる。
●ECサイト制作
WEBサイトの制作と同じように考えてしまいがちだが、サイト上で物を売るということはそれほど簡単ではない。単にECサイトがあるだけでそれなりの数字が上がることはほとんど皆無であり、いかにそのサイトに集客し、買ってもらえるようになるかということを周到に考えなければならない。専門の業者に依頼したり、広告にお金をかければそれなりの売り上げをつくることはできるが、それだけでは持続的のその数字を維持したり拡大することは難しい。しかも売り上げはECサイトだけが増えればいいわけではないので、リアルな売り上げとサイト上の売り上げを一緒に考える必要がある。そうなってくるとサイト上の戦略だけでは不十分だということが見えてくる。
●SNSコンテンツ制作
ネット上の戦略でWEBやECサイトを十分に活用するにはSNSの発信が欠かせない。とはいうもののクライアント内で質の高いコンテンツを作り続けるのは、かなりハードルが高く、専門の業者に依頼するケースも珍しくは無い。しかし、その企業の奥深い部分までを熟知していなければ質の高いコンテンツは生み出せないはず。そのためにはコンテンツだけを断片的に請け負うのではなく、商品企画から販売方法までの様々な過程でデザインを合わせて受注することが理想。そうすることでクライアントの業務の隠れた部分が理解でき、質の高いコンテンツが生まれる。

様々なジャンルを見てみると、勝ち組と負け組がはっきりしているのがわかります。大まかには「デジタル系が強く、アナログ系が弱い」という構図が見える様に思わますが、実際には強いと思われるデジタルの方には業者が集中し、価格競争やサービス過多という問題がつきまとうのでデジタルが優位とは一概に言えません。
それよりも短期間で変化する市場に素早く対応し、できるだけ幅広いジャンルの業務に対応することが重要です。それにより仕事と仕事の間に相乗効果が生まれ、それぞれの仕事の精度が上がるはずです。

とはいうもののその相乗効果という感覚は実際に経験してみないとわかりません。専業化から脱却するのは相当な勇気と勉強が必要になるので、効率の悪化や慣れないことを嫌うデザイナーにはそもそも無理なことかもしれません。

ただ、今後5年、10年というスパンでデザインビジネスを考えた時、毎年の様に訪れる世の中の大きな波や変化に対応できるところと、そうでないところでは大きな差が出ることは確実で、その時代特有の波をうまく渡ってゆくには、効率優先の専業化よりも広い守備範囲を持った適応力のあるデザイナー(デザイン会社)が勝ち残れるように思います。
「うちの会社は全てこのデザイナー(デザイン会社)に任している」と言ってもらえるクライアントをどれだけたくさん持てるか・・・・・

そんな大きな目標を掲げ、激動の2021年、22年を乗り切りたいと思います。

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