2022.7.4

これからデザイナーを目指す若人へ

働き方改革とデザイナー

今年も就職を控えた学生たちがリクルートスーツに身を包み、黒い鞄を下げて歩く姿を見かけるシーズンになった。
わたしたちのデザイン業界では、昔から就活のスタートが通常の大学よりもかなり遅い。最近でこそ夏頃には会社説明会や就職セミナーなどに出向く学生も増えたが、私が就職活動をした40年近く前は、年内に決まれば早いほうというのん気なものだった。
幸い私の頃はそれほど景気が悪かったわけでもなかったし、今と違って求人にも男女の人数を分けて明記されていたので、女性に比べ1/5程度しかいなかった男子美大生にとってはかなり有利な状況だった。それもあって男子は余計にスタートが遅くなる傾向が強かった。
今は、求人の職種も昔は無かったようなものが多く、随分と様変わりしたものだとつくづく思う。

今やデザイナーの仕事はほぼ全てデジタルに

すでにデザインという仕事がデジタルに置き換わってから30年程度が経過した。もちろんデザインと言っても様々な業種があるので、それぞれにばらつきはあるもののおおむねその頃からアナログが消滅し始めた。最後までアナログが残っていたテキスタイルデザインの世界でもすでにデジタルに置き換わっており、
アナログが主体のデザインというものはほとんど残っていない。
イラストレーターは一部タッチによって依然としてアナログを優先する人もいるが、それとてペンタブの登場で一気にデジタルの割合が多くなった。

余談だが、今の学生は大変だなあと思う。
なぜなら、美大や専門学校に通っている間に、デザインの基礎的なことと、MACの操作方法の両方を習得しなければならないからだ。昔よりも勉強しないといけないことが圧倒的に多いので余計に学生のレベルが二極化している気がして仕方が無い。

雇用形態も多様化

デザイナー自体の雇用形態も昔と違い様々だ。
昔のように正社員かアルバイトか、みたいな単純なものではなく、正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト、フリーランスなど選択肢が多い。もちろん正社員志望が最も多いが、最初からいきなりフリーランスという学生も見られるようになった。
それから大きく以前と違うのは、どんな雇用形態であれ、雇用環境は確実に改善されている点だ。何日も徹夜をしたり、休日出勤も当たり前などというのはもはや時代遅れになり、有給や残業手当が無いとまず人が集まらない。
10人以上の会社は就業規則制定が義務づけされているが、そもそもデザイン会社で10名以上というのはかなり限られているので、大方のデザイン会社には無縁のこととなっている。とはいうものの、実質的には同程度の条件が無いと新しいスタッフを集めることはかなり難しくなる。

デザインの営業手法も多様化

雇用形態が多様化したのは、「仕事の取り方」も昔よりも多様化したからに違いない。昔なら会社に属してない限り、仕事が舞い込んでくることなどほとんどあり得なかったが、今ではネット経由で見しらぬところから依頼があったり、コンペサイトやサブスクの受注側に登録するなどの方法でなんとか仕事を確保できなくもない。
ただ、同時にそれは価格競争やサービス過剰の状況を作り出しているのも確かだ。1つでも仕事を獲得したいがために、目の前の仕事に対して度を超した
サービスをしてしまうのだ。
仕事の数が十分にある東京では、その傾向もあまりないように思われがちではあるが、実際には受注系統の川下へ行けば行くほどその傾向は強く、東京であってもその状況にあえいでいるデザイナーはいくらでもいるのだ。

大切なことは向上心と自尊心

これから社会に飛び出すデザイナーにはこの価格競争とサービス過剰という問題が、まだ実感として理解できないとは思う。
それよりも会社内の人間関係であったり、自分の実力に対する不安であったりの方が大きいのは当然のことだろう。
ここからが今回のブログで最も言いたいことだが、価格競争やサービス過剰、人間関係、自分の実力などの問題もたった2つの心がけでなんとか克服することができる。

それは「飽くなき向上心」と「崇高な自尊心」だ。
この2つさえ強く抱いていれば大概の問題はクリアできる。
おまけにこの2つはそれぞれが相乗効果を生むので、味方に付けてしまえば怖いものはない。自尊心は向上心で努力した結果生まれてくるし、自尊心が無ければ向上心は生まれないからだ。

デザイナーとして一歩を踏み出すことへの不安

とはいうものの、やはり社会に出て自分のデザインを堂々と提示できるまでには
かなりの時間がかかる。
相手が満足してくれるか、それ以前にそもそも人様に見せられるレベルのデザインか、または相手からの依頼に沿ったものか・・・・、不安をあげれば切りが無い。
ただ、デザインに限ったことでは無いが、自分の不安は自分にしか消せない。自分がどれだけやってきたかを自信を持って信じられるかどうかにかかっている。
もちろんそれでも不安感が全く消えるようなことはないが、そういう考え方を続けていればおそらくいつかは不安を自信が上回るときが来る。
それが3年なのか、10年なのか、20年なのかは分からないし、もちろん個人差もあるが、自分の中で5年かかるところを3年に短縮しようと努力することはできるはずだ。たった1日でもそれを短縮できるように頑張るしか無いのだ。

コイズミデザインファクトリーのブランディング

雑音に負けるな

それでもなかなか自分のデザインを認めてもらうのは難しい。クライアントは遠慮無しに自分の好みを主張するし、上司は人の気も知らず平気で否定するし。
ただ、確実に言えることはデザインなんてある程度のレベルに達していれば所詮個人の好みでOKかどうかが決まるのだ。
ただ、そこで腐ってばかりではいけない。
だからといって、いつもクライアントに迎合するのもいけない。
デザインの仕事をしているとそんなことは日常茶飯事だから、いちいちショックを受けてもいられない。こういう状況を何年も続けるのがデザインという仕事だ。
ところが、何十年もデザインという仕事をしていると、いつのまにかそういう感覚がなくなってくるだろう。
その原因は2つ。
周りの雑音が聞こえなくなるくらいの自信ができあがったか、デザインという仕事に向かう気持ちがマンネリ化して薄れてしまったかのどちらかだ。
これから社会に出てデザインという仕事に向かう諸君は、もちろん前者でいたいと思うだろうが、現実的には圧倒的に後者になってしまう人が多い。
それでもデザイナーで居続けていればまだしも、デザイナーという仕事に就きながらも途中で投げ出してしまう人も多い。
私の個人的な感覚では半分以上の人が、リタイアしているように思う。

「あなたは立派なデザイナーになるためにどのくらい人生をかけてきましたか?」
こんな重い質問にまともに答えられる人はそんなにいない。
しかし、デザイナーになった以上はデザインという仕事に人生をかけられるようでいて欲しい。

これからデザイナーになっていく後輩諸君、
明るく燦然と輝く10年先、20年先、30年先であるように、今から精一杯進んで欲しい。
私のようにデザインという仕事をあと10年、20年出来るかどうか分からないものからすると無限の可能性を持った君たちが、羨ましくて羨ましくて仕方が無い。

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