2020.2.2

働き方改革とデザイナー

働き方改革とデザイナー

「働き方改革」時代にデザイナーはどう対処すればいいのでしょう。
一言でデザイナーといっても、様々な種類が存在します。
それはグラフィックだとかプロダクトだとかいうデザインのジャンルではなくビジネススタイルの種類です。
その違いによって「働き方改革」というのは、全く違った意味を持つことが考えられます。

デザイナーの4分類

まず、ビジネススタイルの種類を4つに分けてみます。
1 社員が数十名から数千人程度の中小企業に社員として属するデザイナー
2 社員が数十名から数千人程度の中小企業に契約社員として属するデザイナー
3 スタッフ10名未満のデザイン会社に属するデザイナーやオーナーデザイナー
4 フリーランスのデザイナー

ここになぜ大企業に属するデザイナーが入っていないかというと、社員が数万人もいる大企業でも、デザイナーが属するセクションはだいたいの場合数百人から多くても数千人規模のセクションに分かれている場合が多く、それらの待遇はほとんど数百人から数千人規模の会社に属するデザイナーと同じと考えられるからです。

ただ、ここでは給与など雇用条件の違いは外して考えています。大企業の方が10名未満のデザイン会社より待遇がいいのは当たり前ですが、かといってそういう小規模の会社でも十分大企業並みの収入を得ているデザイナーも存在します。
デザイナーの収入は雇用形態だけで決まるものではないからです。

「働き方改革」の影響

では、デザイナーのビジネススタイルによって「働き方改革」の影響がどう違ってくるか考えてみましょう。

12 のデザイナーの場合

最も変化が大きいのがこの分類に属するデザイナーでしょう。休日が増えたり、残業が減ったりで、自分の自由になる時間が大幅に増えるでしょう。もともと慢性的に長時間労働であったデザインという仕事には「働き方改革」の恩恵は、かなり大きなものがあります。
ただし、単に時短になるだけでは企業にとって何のメリットも無いどころか、生産性が下がるという大きなリスクが伴います。その分デザイナーが皆効率を上げて短時間で同じだけの仕事をこなせるわけもありませんので、それをカバーするには人数を増やすなどの対策で実質人件費が増大してしまうということになります。
事務職や生産現場などはデジタル化やラインのシステム化で効率化がしやすく、人員も削減しやすいのに対し、デザイン職はいくらデジタル化が進んでも所詮は個人プレーですから、効率化が難しい職種ということになります。
さらに、他の職種に比べてもともと労働時間が長かったデザイナーは、今回の改革で従来との差が大きい人員として企業側に判断されますから、デザイナーの正規雇用自体を抑制する力が働きます。つまり、コントロールしにくい職種として企業側に判断され、リストラの断行、アウトソーシングに走るということが起こってきます。
従来リストラというのは仕事がない場合に余剰人員をカットするものでしたが、「働き方改革」後は仕事があってもリストラする、という企業も出てくるでしょう。
そういう考え方が企業に広がっていくと、そこからあぶれたデザイナーは、違う会社を探すか、自分でフリーランスを目指すか、数名のチームで新たなビジネスを立ち上げるかの選択になります。

3 の場合

現実的に最も厳しいのが3に属するデザイナーです。小規模のデザイン会社で今回の「働き方改革」をまともに実行すれば、大方の事務所は成り立たなくなるでしょう。
3〜5名程度の事務所であれば役所がうるさく言ってくることは無いと思いますが、10名を超えるような規模になってくると就業規則を役所に提出したり、有給休暇や残業手当の規定も定めなければなりません。現在の基準に合わせて実際に運営できるデザイン会社は正直ほとんど無いと思いますが、かといって無視し続けることもできません。
その基準を最低限でも満たしながら今までどおりの仕事量をこなすことは正直無理だと思いますが、それでもデザイナー個人にスキルアップして効率を上げていくよう求められるのは避けられません。
デザイン作業のデジタル化や効率化は行くところまでいっている感がありますし、コンピュータの性能を上げたとしても、デザインとは所詮個人技能によるところが大きいので、さほど効果が上がるとは思えません。そもそも小規模のデザイン会社が効率アップのためにそれだけの設備投資をするだけの体力もありません。ですから今回のような「働き方改革」で一番つらいのはこの3のデザイナーとそのオーナーデザイナーです。

4の場合

元からフリーランスであれば、今回の「働き方改革」で自身の働き方が変わることはありません。何時間働こうが何日休もうが誰も文句を言うことは無いからです。その結果ビジネスにどう影響するかはわかりませんが、とりあえず自分の自由であることには何の変わりもありません。
ただ、1と2のデザイナーがリストラなどでフリーランスに流れると当然競争相手が増えることになります。そうすると価格競争や過剰なサービスが起こり、ただでさえ苦しいフリーランスの受注状況がさらに悪化することは避けられません。
つまり間接的に「働き方改革」の影響を受けることになるのです。

「働き方改革」で恩恵を受けるデザイナーは極少数

こうしてみると現実的に「働き方改革」で恩恵を受けるデザイナーはかなり限定されることになります。企業で生き残れたデザイナーやかなり経営的に余裕のあるデザイン会社のデザイナーくらいのものでしょう。もしくはどんな状況下でも常にクライアントの信頼をがっちりとつかめる高いスキルを持ったデザイナーに限られることになります。
つまり、ごく一部の選ばれたデザイナーは何とか「働き方改革」の影響を最小限にとどめることができますが、大方のデザイナーにとっては相当に辛い状況がやってくることになるのです。

もともと二極化していたのが「働き方改革」でさらに顕著に

スキルの違いで待遇や収入にかなりの差が出ていたデザイナーにとって、今回の「働き方改革」はその格差をさらに大きく拡大させることになります。政府のお役人はデザイナーのこういう事情を理解してくれるはずもなく、欧米並みに余裕を持った働き方の中から豊かな生活を産み出すという幻想を押しつけます。
その結果、何とかそれに対応できるデザイナーとできないデザイナーの格差を増大させ、二極化を鮮明にすることになります。「できるデザイナー」と「できないデザイナー」がはっきりと区別されることになるのです。

この状況をどう受け止め、どう対処するかはデザイナー本人にかかってきます。
ただ、悲しいことに今回の「働き方改革」というものは企業が考えることで自分達デザイナーにとっては仕事が今までよりも多少楽になるんじゃないかな・・・くらいにとらえているデザイナーが多いのが現実です。この厳しい状況を真剣に考え、自分のデザイナー人生をどう送っていけばよいかを見定めることができないと「負け組デザイナー」の仲間入りをすることは間違いありません。今デザイナーという職業に就いているものだけでなく、これからデザイナーになろうという若者もこのことを頭に置いて置かなければいけないでしょう。

やれクリエイティブだとか、AIにも影響を受けにくい職業だとか、そんな悠長なことをいっていると、残酷で冷淡な時代の流れに押しつぶされ、デザイナーという職業を選んだことが人生の大きな失敗となってしまうこともあるのです。

「デザイナーとしての覚悟」を問われる時代のなかで、自分がどう生き残っていけるかを考える・・・・、はたしてそこまでしてでもなるべき仕事なのかどうかも含め、熟考することが必要になってくるのかもしれません。

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