2020.9.29

コロナ禍の卒業作品展

卒業作品展
画像はイメージです。

今回のコロナ騒ぎの影響で、美術・デザイン系大学や専門学校の卒業作品展をいかに実施するかというのが学校関係者にとって大きな問題となっているようです。

もともとは在学中に身につけた感性や技術の集大成を内外に見てもらうのが趣旨ですが、今回に限っては今年度になってからの授業が大幅に減少していることや、実施しても会場での感染予防が徹底できるかなどさまさまな課題を抱えての実施となりそうです。
一時は中止も視野に入れるような機運もありましたが、幸い様々なイベントが再開していることもあって、大方の学校で実施されるようです。

ただ、私には感染予防のことばかりに気をとられて、せっかくの大きなチャンスを逃しているようにも見えます。

通常卒業作品展には学生の家族や友人、これからその学校を目指そうとする受験生、その学校の学生を採用しようとする企業などが来展するのですが、毎年同じことの繰り返しで、全く新鮮さはありません。
各科別に整然と作品が並べられ、優秀な作品には賞が授けられる、そういう感じは私が学生であった40年前とほとんど変わっていません。
一部のデザイン系専門学校では学生のプレゼンタイムを設けるなどの工夫も見られますが、今回のコロナ禍ではそれもなかなか難しい状況です。

しかし、ちょっと視点を変えてみると世の中は一気に「配信」という手段が広がり、その場所へ行かなくても様々なイベントやエンタメが閲覧できるようになりました。

この状況を作品展に取り入れない手はありません。
少し工夫すえば、会場の雰囲気だけで無く、作品の詳細や学生のプレゼンもすべて閲覧が可能になるはずです。
そうすれば今までよりもずっとたくさんの人に作品展を見てもらうことが可能ですし、なにより美術・デザイン系の教育機関が少ない地方の人に大きくアピールできるのでは無いでしょうか。

もともと少子化の中にあっても美術・デザイン系の大学や専門学校は、他の一般大学に比べ学生の確保にそれほど苦労をしていないので、そのあたりの工blogLeft夫が足りていないのかもしれませんが、今回のコロナ禍でこそ一工夫も二工夫もしてほしいものです。

そうすれば、美術系の教育機関を取り巻く環境の中で私が最も問題だと思っている「都市部と地方の情報格差」を緩和することにも貢献できるように思います。
京都や東京のように美術系大学や専門学校、美術系の高校などの教育機関がたくさんあるところには当然情報もたくさんありますが、地方にはそういう教育機関が一つも無いところがたくさんあります。

そういうところで生まれ育ち、高校まで過ごしてしまうと都市部の情報の多いところで育った学生とは明らかに環境が違い、せっかく才能豊かな人材がいても美術やデザインの方向に将来の夢を描くということが起こりにくくなってしまいます。

現にうちの事務所へインターンに来る学生で地方出身者は、必ずと言っていいほどそういった教育期間へ受験するための準備が遅れたり、そもそも気がついてなかったり、学校の先生からのアドバイスも無かったりするという話をしています。

そういった状況は教育機関だけの損失では無く、美術界やデザイン界全体の大きな損失であり、日本の文化的レベルの話にまで影響があるように思います。

この状況を少しでも緩和するために、今回のコロナ禍での影響を逆手にとり、今までよりもずっと開かれた卒業作品展を実施して、もっともっとたくさんの人が作品展に触れる機会を作るべきでは無いでしょうか。

一部の学校では作品の一覧や会場の雰囲気の配信などをすでに行っているところもありますが、まだまだその配信自体の魅力に欠け、たんなる公開にとどまっています。
せっかくここまで世の中が配信というものに関心を持っているのですから、もっともっと内容の濃い、興味を引くような配信を行ってほしいものです。
大方の学校には映像やデジタルコンテンツの専攻もあり、教育者もいるはずです。その人たちは今こそ人生最大のチャンスだと思って、知恵を絞り、手を動かすべきです。
時間が足りないなんて、世の中に出れば何の理由にもなりません。ちょっと頑張れば1ヶ月もあれば余裕で実施できるはずです。
と、いうかそういう専攻の学生がそういうこと自体を卒業作品とすることも考えられます。

とにかく、こんな大きなチャンスは二度と無いのですから、教育機関も他校と差をつけるチャンスです、

そして何よりも地方に発掘されないまま終わってしまう才能を掘り起こす手立てになるのではないでしょうか。

美術・デザイン系大学や専門学校の皆さん、是非考えてみてください。

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