2024.1.16

ついに来たデザイン業界、次の大波

デザイン界の大波

デザイン界に業界全体の
地図を描き換える第5の大波が
ついにやって来た

それはメタバースでもNFTでもなく、間違いなく「AI」

デザイン界の第1の大波は明治・大正期の「グラフィックデザインの大衆化」だと私は考えている。
そして戦後、印刷技術の発達で凸版印刷主流の時代からオフセット印刷の時代へ移行することで「版下」が登場し、写植やトレスコによる紙焼きの使用によるデザインフローの大きな変化が第2の大波か。

そしてその時代が20年以上続いた後、いよいよやって来たデザイン業界史上最大の波がデジタル化だ。
1987年にリリースされ、初めてカラー使用が可能なったMacintosh IIにより、ついにデザインのデジタル化が始まった。
そしてそれが第3波だと思う。

さらに第4波としてその約10年後、Netscape Navigatorなどのブラウザ普及と共にインターネットを使ったWEBサイトの大衆化でWEBデザインという新たなデザインジャンルが誕生した。

それからすでに四半世紀。
ついに押し寄せてきた第5波は、まちがいなく「AI」だ。

私がデザイナーになって40年以上が過ぎた。
第1波と第2波は、リアルタイムで知らないし、現役でその2つの大波を経験したデザイナーは、年齢的にほぼ存在しない。

そして私がデザイナーになって5年目位に突如襲いかかった第3波は、デザイン業界だけで無く社会全体を大きく変化させた。
当時、デザイン業界ではデジタル化に対して否定派と肯定派に大きく分かれたが、デジタル化出現当初は圧倒的に否定派が多かった。特にベテランデザイナーにその傾向が強く、「MACなんて使い物にならない」という考え方が大勢を占めていた。実際「日本語が苦手(漢字トークというシステムをかます必要があったり、フォントがゴシックと明朝の2書体しか使えなかった)」「機材がやたら高い(Macintosh II本体やアプリケーション、フォントを揃えると約200万円)」「出力環境が無い(データ上はカラーでデザインしても満足のいく出力ができない)」「印刷業界の対応に時間がかかった(当初はデータ入稿では無く、出力で版下を作成していた)」などあまりにも障害が多く、当時のデザイン会社はほとんど見向きもしなかった。

ところが環境が徐々に整ってくると、圧倒的に効率がよいデジタルでの作業が一気にアナログを駆逐し、同時に保守的な考え方に縛られていたデザイン会社を消滅させた。そのことはグラフィックデザインだけでなく、インテリアデザイン、テキスタイルデザイン、プロダクトデザインなど他のデザイン業界にも波及し、デザイン界全体の流れとなったのだ。

そしてそれから10年も経たない間に、第4の大波が来る。WEBデザインという全く新しいジャンルの誕生だ。これもデジタル化の時と同じようにデザイナーの仕事では無いという否定派が存在したが、そんな考え方とはまったく別の所からWEBデザインに特化したデザイナーが登場し始めた。

当初WEBデザインは、システム会社のようにデジタルに強い業界がまず先行したが、それはWEBデザインを行ううえで、あまりにも従来のデザイン手法とかけ離れたスキルが必要であったことと、元来勉強嫌いなデザイナーたちに取っては明らかにハードルが高かったことに起因する。それでも生活自体を大きく変えたWEBデザインの需要は劇的に拡大し、現在ではグラフィックデザインの市場規模よりもWEBデザインの市場規模の方が圧倒的に大きくなってしまった。

その後、デザイン界はそれほど大きな動きは無かったが、私は漠然と「また10年ほどの間に間違いなく大きな波が来る」と考えていた。第4波のあと「動画編集」や「キャラクターイラスト、アニメの流行」「SNSの拡大」など小さな波はやって来ていたが、それまでの大波に比べると明らかに小さな波であったし、デザイン業界を再編するような力は到底無かった。

さらに、数年前から登場した「メタバース」や「NFT」も、当初これが第5の波かと思ったりもしたが、「メタバース」に関しては2006年前後に登場したセカンドライフの焼き直し感が強いし、「NFT」に関してはデジタルマネーの投機対象という感がぬぐえない。
ましてや第3波や第4波は、正直デザイナーたちの全く想像できなかった所から突如やって来た変革であったのに対し、これらはデザイナーのレベルでも十分想像できる範疇だったし、その世界の構築自体すでにデザイナーが多く関わっていた。その程度のことでは業界自体が描き換わるほどの変化には到底ならない。


そんな中でここ1,2年急速に認知されてきた「AI」。

「AI」自体の存在は社会的に数年前から知られていたけれど、まだまだ限られた分野に特化したものであり、ましてやデザインのように創造力がものをいう業種にはまだまだ浸透するのに時間がかかると思われていた。というか、少なくともデザイナーたちはいまだにそれほど興味や危機感を持っていない。

ところが、最近デザインの仕事では必修であるADOBEのアプリケーションに突如「AI」機能が付加された。どこまで使用できるかはまだまだ検証が必要だが、それでも明らかに足音は近づいている。
おそらくWEBのコーディング作業や画像のレタッチ、イラストの生成などから「AI」の領域が広がるはずだ。現状でもSNSコンテンツの作成や簡単なライティングなどは十分実用に耐えうるし、もっと踏み込んで考えれば使い方はいくらでもあるだろう。

今までの大波と決定的に違うのは「倫理観」

ただ、今までの大波と決定的に違うのは「倫理観」がからむことだ。「AI」で生成したものでデザインを仕上げてお金をもらうということへの罪悪感にも躊躇だ。この点をデザイナー自身がどう消化するかが今後の「AI」の普及に大きな影響を及ぼすと思うが、さりとて周りがどんどん「AI」を使うようになってしまえば、自然とそういう感覚は薄れてくると思われる。
あとは元来勉強嫌いなデザイナーがどのくらいの吸収力を持ってこの波に乗れるかにかかっている。罪悪感にも似た躊躇を理由に勉強を怠るデザイナーは確実に存在するし、逆にこんな時は先走りし過ぎるものも出てくる。私のように40年もこの仕事をしているとさすがにそのあたりはうまく渡っていけるだろうけれど、油断をしていると「AI」の波に飲み込まれるようなことも起こりかねない。

私は今まで40年ほどのデザイナー人生の中で、体験した大波は今のところ何とかクリアできたと思っている。それでも大きな2つの後悔もあって、その2つが未だにコイズミデザインファクトリーの事業展望の中で負の遺産として横たわっている。

コイズミデザインファクトリー 負の遺産

1つ目は、第4の大波が完全に業界を席巻した頃に、WEBデザインに関して少し先読みを誤ったことだ。もちろんWEBデザインというものが今後重要になってくるという認識は十分すぎるほどしていたが、WEBデザインにおいて未だに必修となる「コーディング」という作業がもっと早くに効率化されて、一般のグラフィックデザイナーが操れるようなアプリケーションが登場すると考えていたのだ。イラストレーターやフォトショップが使えればPDFを書き出すような感覚でWEBページが作成できるようになると本気で思っていたので、わざわざWEBデザイナーを養成したり、新しく雇ったりする必要は無くなると考えていた。ある程度の期間をおけばそういう状況になって、WEBの仕事もこなせるようになるだろうとたかをくくり、短期間ではあったもののWEBの仕事自体を断っていたこともあった。

ところがWEBデザインは進化するスピードが凄まじく、ADOBEのアプリケーションが追いつけなかったため、いつまで経ってもそういう状況にならず、急遽WEBデザインの体制を整える必要に迫られたのだ。

今では仕事の約半分がWEB系のものとなっているので、今回「AI」の対応はかなり敏感に反応しているつもりだ。

2つ目の後悔は「東京出店の遅れ」だ。もともと私はあまり東京志向では無かったので、出店が遅れても仕方ないかもしれないが、第3、第4の波によってさらに助長された「東京の一極集中」が私の予想を遥かに超えた勢いで加速したことで、京都や大阪のデザインビジネスに対する展望ができなくなった。私がデザイナーになってから15年間くらいは、まだまだ大阪や神戸、京都にもデザインを必要とする企業がたくさん存在したけれど、現状ではさまざまな企業が企画やデザインの部門を東京に移転したり、東京の業者を使うことが多くなった。その流れは3つ目、4つ目の大波に比べて緩やかだったこともあり、自分の意識を東京へ向けるのに時間がかかってしまったのだ。もうあと10年早く東京に意識を向けることができていたなら、コイズミデザインファクトリーの今はもっと進化しいていたかもしれない。

後半は第5の大波の話しから少しずれてしまったが、次の第5波はもう間違いなく「デザイン業界のAI化」だ。コイズミデザインファクトリーとして、この「デザインでのAI活用」をいかに達成できるか、そこが今後1〜2年の大きなポイントであるし、その先5年、10年のあり方に大きく影響する。

今までの大波を乗り越えてきた経験が果たして活きてくるのか否か、そこに弊社の行く末がかかっていると考えている。

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