2017.8.8

デザイン事務所をやっていること

子供の頃からデザイナーになりたいと思っていた。
少なくとも小学校の卒業文集には将来の夢として「商業デザイナー」と書いている。もちろんその頃デザインというものにこんなにたくさんのジャンルが存在し、それぞれが全く違った仕事をしているということなど知るはずもないし、私が小学校6年生の頃には今ほどたくさんの種類が存在したとも思えない。

もともと私は幼稚園の頃から絵を描くことが大好きだったし、唯一の取り得といってもよかった。妹がいたこともあって私ひとりで外へ遊びに出ることがかなわなかったという事情もあり、幼稚園から帰ったあとはひたすら絵を描いている子供だった。

「絵が上手だね」といわれることがうれしくて自分が描いた絵を人に見てもらうのもこの頃から好きだったし、実際たくさんの大人たちが私の絵を褒めてくれた。かといって画家になりたかったわけではないが、私の両親はことあるごとに「絵では食えない」と幼い私を諭していた。
そうかと思えば、型友禅の職人をしていた両親は「染める職人ではなくて、この図案を考える方の人にならんとあかん」と、まだ幼稚園児の私にしつこく言い聞かせた。

そんなトラウマもあってか、「画家」を目指さずに「デザイナー」という仕事を夢としたのだろうと思う。

昔の話はさておき、とにかく今はデザイン事務所をやっている。「経営している」といえるほどたいした会社ではないし、私自身もデザイナーであるから「やっている」というのが適当かと思う。

しかも今年の12月になればもう30年もやっていることになる。
よく飽きないものだとも思うし、他の商売をやってみたいと思うときもないとはいえない。

でも、延々とやっている。

なぜここまで続けてこられたのだろう。
もちろん周りの人に支えていただいたということはあるのだけれど、私自身にも何か理由があったに違いない。

確かにこの仕事に向いているなあと思う瞬間もある。
特に用事がなくても事務所で過ごす時間は心地よいし、何かしらごそごそとブログやコラムを書いたりしている。
きっとこれは小さい頃大人たちに自分の絵を褒めてもらうのがうれしかったことと同じなのだろう。
今でも世間に自分のデザインや絵を褒めてもらいたいのだろう。

その想いを持ち続けてきたことが、30年も続けてこれた大きな理由なのだろうと思う。

私の両親は生前私の絵を一度も褒めたことがない。
どんなにうまく描けたと思う絵も褒めてくれたことがない。小さい頃から、そこそこ大人になって自分の事務所を持ってからも褒めてくれたことは一度もない。そういう育て方を意識してしていたわけではないと思うが、結果的に人に褒めてもらう絵というものを突き詰める私が育った。

私にとってはデザインをすることも絵を描くことも字を書くことも気持ちは同じだ。
正直どれも楽しいし、飽きることはない。
その気持ちは若い頃より今の方が強い。若い頃はやりたくない仕事でも何とか我慢をしてこなしてゆくことが苦痛に思うこともあったが、今は私も成長したもので、やりたくない仕事をうまくかわしながらやりたい仕事をかき集められるようになった。

最近、90歳まで現役でデザイナーでいたいということを意識的によく言うようになった。気持ちは口に出していった方がテンションを維持できるので、そうしている。90歳まであと36年。デザイナー人生、まだ半分にも満たない。90歳まで本当にできたとしたら創立66年を迎えることとなる。縁起のいい数字だ。
それに向かってまた明日も忙しい1日になりそうだ。

その積み重ねが31年、32年、33年と続いて、事務所も私もどんどんらしくなってゆくんだ。

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